ベーシック圏論
よく「ベシ圏」とよばれている本です.
私は学部2回生の夏に初めてこの本で1圏論を学び始めました.
学部1年の時に某関西の大学の自主ゼミサークルの講演で「サルでもわかる圏論」という講演をきいたのも懐かしいです笑
今考えると,1圏論を学ぶ本の1冊目としては割と良い選択だったと思います.(今はさまざまな本が出版されているので,なんとも言えませんが,それを考慮しても悪くなかったなと感じます.)
しかし,その頃は圏論以外の知識があまりなかったので様々な概念の例を追うのが大変だった記憶があります.
今では1圏論は割と具体的だと感じてしまいますが,学部生やあまり具体例を知らない状態で圏論に触れると抽象的に感じて足が地に付いてない状態になってしまう場合もあると思うので注意が必要かなとは思います.
とはいえ,とても良い視点を得ることができるので圏論に触れたことがない方は是非一度触れていただきたいです.
少し懐かしい話をすると,spm19thの圏論班でこの本を読みました.
spmでは論理学に詳しい先輩がいらっしゃったので色々な視点から1圏論を学べてとても勉強になりました.(進捗部屋で米田の補題示して図式が可換になるたびに拍手してたのも懐かしいです笑)
さて,思い出話はこの辺にしてここからはベーシック圏論の内容を章ごとに簡単に紹介します.
序論
序論では,圏論で1番重要と言っても過言ではない「普遍性」の話から始まります.
線形代数や環論や位相空間論など様々な分野の例を使って「普遍性」の例が挙げられています.
正直この時点ではそういうものがあるんだ!くらいでもう少し後ろを読まないと何を言いたいのかわからないと思うので眺める程度で良いと思います.
当時は代数的位相幾何学が専門ではなく,不勉強だったのでさっと読み飛ばしていたのですが,van Kampenの定理の主張が簡潔に述べられるということも紹介されていたりします.
1章
1章では,いよいよ圏の話が始ります.
圏と関手と自然変換の定義と例が述べられています.(少し圏論を知っている方に向けてですが,宇宙などについてはふれられていないので他の本を参照する必要があります.)
ここでも多岐にわたる分野の例が挙げられています.
例1.1.8では,モノイドや群や前順序集合が圏とみなせるという話が書いてあり,当時の私には新鮮な目線でした.(この本には書いてないですが,環や距離空間も豊穣圏と見なすことができます.)
例1.2.5では,基本群を取る操作が関手になっているということが述べられています.
少し考えると関手が同型射を保つことから位相不変量であることを理解することもできます.
例1.3.5では,行列式が自然変換であることが述べられています.
身近なものが自然変換でみれるという視点は面白いと思います.(この本には書いていないですが,微分形式も自然変換とみなすことができます.)
命題1.3.18では,関手が圏同値であることと忠実充満かつ対象について本質的に全射であることの同値性が述べられています.
これは証明が演習問題になってますがよく使うので1度は証明してみると良いと思います.
例1.3.22では,代数と幾何の双対について結果のみ述べられています.
ここがこの本の1番面白いところだと個人的には思っています笑(そのため,様々な文献を読んで双対について学んでいます笑)
演習問題1.3.34では,線型空間において行列が線型写像と等価なことが圏同値を用いて述べられています.
これは前提知識も少なく,面白い話なので証明してみると良いと思います.
2章
2章では,「転置」,「単位と余単位」,「コンマ圏の始対象」の3通りの方法で随伴を定義し,それらが同値であることを証明します.
どれも大事なのですが,転置の説明は少し分かりづらいかなと思いました.
また,どの方法がどう使われるのかがこの紹介では少し理解しづらいかなと感じました.
この本には詳しく述べられていませんが,例えば単位と余単位の導入ではモナドなどの概念を学びながらだとその有意義性が感じやすいかなと思います.
この本では例がいくつか挙げられているので具体的に手を動かしながら考えると良いと思います.
例2.1.6では,カーリー化の説明が図を用いて分かりやすく述べられています.
カーリー化はプログラミングでも使用できる部分がありとてもおもしろく感じました.
演習問題2.2.14は関手圏の間の随伴についてですが,これは解いておくと良いと思います.
この本では詳しく述べられていませんが,Kan拡張を知ったときに何かに気づくと思います.
定義2.3.1では,コンマ圏が導入されます.
コンマ圏は随伴以外でも使うことが多く,重要な対象なので慣れておくと良いと思います.
ストリング図式も紹介程度に述べられています.
1圏論では,使用率は高くないかもしれませんが,2圏論などはストリング図式で理解が容易になることも多いと思います.(壱大整域の2圏のpdfを全てストリング図式で翻訳したゼミも今思うと懐かしいです.)
3章
3章では,集合論について少しだけ述べられています.
圏の大きさなどは重要ですが,最初はあまり気にしなくて良いので章の名前にあるように休憩かなと思います.
しかし,とても面白いので興味がある方はぜひゆっくり読んでいただきたいです.
トポスなどを勉強する際に重要な視点もここで養うことができると思います.
4章
4章では,表現可能関手と米田の補題について述べられています.
この本で1番面白くて1番重要な章だと思います!!
表現可能関手はとても重要な概念なのでたくさん例にふれて慣れると良いと思います.
定義4.1.25では,一般元が導入されます.
ここでは,あまり詳しく述べられてませんがとても重要な概念です.
演習問題4.1.27は米田の補題から証明できますが,1度直接示しても面白いと思います.
4.2では,米田の補題の証明が述べられています.
証明はとても丁寧にされていますが,1度何も見ずに証明してみると良いと思います.
4.3では,米田の補題の帰結が述べられています.
ここは本当に重要なのでゆっくり全部理解してほしいです.
ここで述べられていることは呼吸するように使えます.
特に系4.3.10が1番重要かなと思います.
これにより,射を見れることが対象を見ることと同値だということが帰結されます.
演習問題も全部解くと良いと思います.
5章
5章では,極限と余極限について述べられています.
5.1では,積,イコライザ,引き戻しという3つの極限の話を述べてから一般的な極限の定義が導入されます.
同様に,5.2では,余積,コイコライザ,押し出しという3つの余極限の話を述べてから一般的な余極限の定義が導入されます.
代数的なものの核が0射とのイコライザであることや最大公約数が積であることや最小公倍数が余積であることなど面白い視点の例が紹介されています.
命題5.1.26は積とイコライザで極限を記述できるという主張です.
この視点は大事だと思うので時間をかけて理解すると良いと思います.
一部が演習問題になっていますが解いてみると良いと思います.
球面の構成が極限からのものと余極限からのものでされているのも面白い例だと思います.
このような例で極限や余極限に慣れていくと良いと思います.(こういう視点に立つとCW複体も押し出しで記述できますね.これを滑らかにはり合わせたいときは糊代部分をうまくしないと特異点になりそうです.これを解決したりしたのが私の書いた論文だったりします.)
モノ射とエピ射は本文で述べられていますが,その正則性や分裂性は演習問題にされているので興味のある方は解いてみても面白いと思います.
5.3では,関手と極限の関係について述べられています.
演習問題では,射影的対象と単射的対象についての問題もあります.
6章
6章では,随伴関手と表現可能関手と極限について述べられています.
ある程度1圏論に慣れてきたらこの章はとても面白いと思います.
この章はゆっくり読んで全部理解すると良いと思います.
定理6.2.5は関手圏における極限が各点で計算できるということを主張しています.(院試のときに先生の前でこの主張に関する話をしたこともあったり.)
定理6.2.17は任意の前層が表現可能関手の余極限で記述できるという主張です.
この本の証明を読んだ上でKan拡張を学ぶとなぜcategory of elementsを考えるかわかると思います.(この本には詳しく述べられていませんが,米田埋め込みに沿った米田埋め込みのKan拡張を考えると理解できます.)
Category of elementsは米田埋め込みに沿ったKan拡張を各点で計算する際にとても重要な概念だったりします.(しばしば積分記号で表記されますが,コエンドで記述することができます.)
演習問題でKan拡張やトポスのことが述べられています.
付録
付録では,一般随伴定理の証明がされています.
Kan拡張を知っていると仮定の意味がわかると思います.
最後に
この本を読めば基本的な1圏論を学んだと言っても良いかもしれません.
私は全て読み,演習問題も全て解きましたが,誤植も少なく,とても読みやすく良い本だと思いました.
どの概念も例が豊富で演習問題の解答もあるのでとても読みやすい本だと思います.