たくさんの猫と豊かな世界

ベーシック圏論


よく「ベシ圏」と呼ばれている本です. 私は学部2回生の夏に初めてこの本で圏論を学び始めました. 今考えると圏論を学ぶ本の1冊目としては良い選択だったと思います. しかし,その頃は圏論以外の知識があまりなかったので様々な概念の例を追うのが大変だった記憶があります.
また,spm19thの圏論班でこの本を読みました. spmでは論理学に詳しい先輩がいらっしゃったので色々な視点から圏論を学べてとても勉強になりました.(進捗部屋で米田の補題示して図式が可換になるたびに拍手してたのも懐かしいです笑) さて,思い出話はこの辺にしてここからはベーシック圏論の内容を章ごとに簡単に紹介します.

序論

序論では,圏論で1番重要と言っても過言ではない「普遍性」の話から始まります. 線形代数や環論や位相空間論など様々な分野の例を使って「普遍性」の例が挙げられています. 正直この時点ではそういうものがあるんだ!くらいでもう少し後ろを読まないと何を言いたいのかわからないと思うので眺める程度で良いと思います.

1章

1章では,いよいよ圏の話が始ります. 圏と関手と自然変換の定義と例が述べられています.(少し圏論を知っている方に向けてですが,宇宙などについてはふれられていないので他の本を参照する必要があります.) ここでも多岐にわたる分野の例が挙げられています.
例1.1.8では,モノイドや群や前順序集合が圏とみなせるという話が書いてあり,当時の私には新鮮な目線でした.(この本には書いてないですが,環や距離空間も豊穣圏と見なすことができます.)
命題1.3.18では,関手が圏同値であることと忠実充満かつ対象について本質的に全射であることの同値性が述べられています. これは証明が演習問題になってますがよく使うので1度は証明してみると良いと思います.
例1.3.22では,代数と幾何の双対について結果のみ述べられています. ここがこの本の1番面白いところだと個人的には思っています笑(そのため,様々な文献を読んで双対について学んでいます笑)
演習問題1.3.34では,線型空間において行列が線型写像と等価なことが圏同値を用いて述べられています. これは前提知識も少なく,面白い話なので証明してみると良いと思います.

2章

2章では,「転置」,「単位と余単位」,「始対象」の3通りの方法で随伴を定義し,それらが同値であることを証明します. どれも大事なのですが,転置の説明は少し分かりづらいかなと思いました. 例がいくつか挙げられているので具体的に手を動かしながら考えると良いと思います.
例2.1.6では,カーリー化の説明が図を用いて分かりやすく述べられています.
定義2.3.1では,コンマ圏が導入されます. コンマ圏は随伴以外でも使うことが多く,重要な対象なので慣れておくと良いと思います.

3章

3章では,集合論について少しだけ述べられています.
圏の大きさなどは重要ですが,最初はあまり気にしなくて良いので章の名前にあるように休憩かなと思います.

4章

4章では,表現可能関手と米田の補題について述べられています.
この本で1番面白くて1番重要な章だと思います!!
表現可能関手はとても重要な概念なのでたくさん例にふれて慣れると良いと思います.
定義4.1.25では,一般元が導入されます. ここでは,あまり詳しく述べられてませんがとても重要な概念です.
演習問題4.1.27は米田の補題から証明できますが,1度直接示しても面白いと思います.
4.2では,米田の補題の証明が述べられています. 証明はとても丁寧にされていますが,1度何も見ずに証明してみると良いと思います.
4.3では,米田の補題の帰結が述べられています. ここは本当に重要なのでゆっくり全部理解してほしいです. また,演習問題も全部解くと良いと思います.

5章

5章では,極限と余極限について述べられています.
5.1では,積,イコライザ,引き戻しという3つの極限の話を述べてから一般的な極限の定義が導入されます.
同様に,5.2では,余積,コイコライザ,押し出しという3つの余極限の話を述べてから一般的な余極限の定義が導入されます.
命題5.1.26は積とイコライザで極限を記述できるという主張です. 一部が演習問題になっていますが解いてみると面白いと思います.
モノ射とエピ射は本文で述べられていますが,その正則性や分裂性は演習問題にされているので興味のある方は解いてみても面白いと思います.
5.3では,関手と極限の関係について述べられています.
演習問題では,射影的対象と単射的対象についての問題もあります.

6章

6章では,随伴関手と表現可能関手と極限について述べられています.
ある程度圏論に慣れてきたらこの章はとても面白いと思います.
この章はゆっくり読んで全部理解すると良いと思います.
定理6.2.17は任意の前層が表現可能関手の余極限で記述できるという主張です.
この本の証明を読んだ上でKan拡張を学ぶとなぜcategory of elementsを考えるかわかると思います.(米田埋め込みに沿った米田埋め込みのKan拡張を考えると良いです.)
演習問題Kan拡張やトポスのことが述べられています.

付録

付録では,一般随伴定理の証明がされています.
Kan拡張を知っていると仮定の意味がわかると思います.

最後に

この本を読めば基本的な圏論を学んだと言っても良いかもしれません.
どの概念も例が豊富で演習問題の解答もあるのでとても読みやすい本だと思います.


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