ファイバー束とホモトピー
元々は確か玉木先生のホームページに公開されていたものが2020年に出版された本だと思います.(pantdonにはいつもお世話になっています笑)
この本では,現代的な視点でファイバー束について学ぶことができると思います.
この本というか玉木先生の本の特徴として議論を展開する前に観察を丁寧にすることで導入が自然であることがあります.(この本の他に一般コホモロジーの本も学部生の時に読みましたが,こちらも観察が丁寧でとても読みやすかったことを覚えています.行間があるかないかは別の話ですが...)
また,この本の特徴として,図が豊富に用いられており,イメージがしやすいところがあります.
これにより,理解がとてもしやすくなっていると思います.
さらに,詳しい議論は他の文献に投げられますが,細かい注釈があることも面白い点だと思います.
説明が省かれる場合も文献は紹介されているので調べて理解を深めることができてとても良かったです.
私が学部生の時はSteenrodのファイバー束や西田先生のホモトピー論などでファイバー束や準ファイバー束などのホモトピー論の詳しい議論は学んでいたので,この本の出版にはとても喜んだ覚えがあります.
私は学部3回生のときにこの本でセミナーをして,1年半ほどで全て読み終わり,Hoveyのモデル圏のセミナーへと移行していきました.
代数的位相幾何学の視点を持っている方はもちろん,代数幾何的な視点を持っている方や微分幾何的な視点を持っている方が集まり,とても楽しかったです.
さて,思い出話はこの辺にしてここからはファイバー束とホモトピーの内容を章ごとに簡単に紹介します.
1章 ファイバーを束ねる
この章では,ファイバー束の定義の前に例をみて,イメージを掴むことを目的としています.
自明束をはじめ,多様体の接束などの例が図を用いてわかりやすく述べられています.
2章 雛形としての被覆空間
この章では,ファイバー束の前に被覆空間の基本的な理論が述べられています.
まず,被覆空間の定義が紹介され,図を用いてわかりやすく説明されています.
図があるだけでなく,すぐに自明でない例として1次元球面から1次元球面への複素数としてのn乗する写像が紹介されています.
2.2節では,道とそのリフトの紹介がされています.
ここではLebesgueの補題からLebesgue数をとってうまく分割し,道をリフトする議論が丁寧にされています.
この辺の議論はホモトピー論では基本的で重要になるので,この本で丁寧に追うことができるのはとても良いと思います.
2.3節では,基本群とそのファイバーへの作用(モノドロミー)について述べられています.
ここの面白ポイントとして,ここで群の定義がされています.(今??ということでセミナーメンバーで笑っていました.)
この章の議論はファイバー束でも重要になるので,後ろの章を読んでから戻って見直しても面白いと思います.
3章 ファイバー束の基本
この章では,まず,局所自明化のみを用いて原始的なファイバー束の定義が紹介され,その後に,座標変換や構造群や主束などが導入されていきます.
ここでも,図を用いて丁寧に説明されています.
例3.1.11では,Hopf束が紹介されています.
構造群について,語るために,位相群やコンパクト開位相についても述べられています.コンパクト開位相については付録でも詳しく述べられています.
例3.5.24では,Hopf束の構造群が計算されています.
3.6節では,丁寧な観察をしながら,位相群をその部分位相群で割る射影が局所切断を持つならばファイバー束になるということが示されています.
ここはセミナーで私が発表しましたが,とても楽しかった覚えがあります.
上記は3.7節で主束になることも示されます.
例3.7.15では,Hopf束が主束であることが示されています.
定理3.7.18では,座標変換と群GからファイバーFへの作用を固定すれば,主G束とファイバーがFで構造群がGのファイバー束と1対1対応があることが示されます.
これにより,主束を調べれば,十分であることがわかり,主束が重要なのがわかります.
これはとても重要なので,しっかり読むと良いと思います.
4章 ファイバー束の分類
この章では,ファイバー束の間の射やプルバックやCW複体やホモトピー群の紹介をしたのちに,主束の同型類の集合が分類空間への射集合のホモトピー類で記述できることを示しています.
前章では,ファイバー束を調べるには,主G束を調べれば十分であることが述べられましたが,これにより,分類空間で表現されることがわかります.
普遍束の構成はSteenrodによるStiefel多様体を用いたもの(ここではほんの少しだけStiefel-Whitney類や管状近傍のことも述べられています.)とMilnorのジョインの繰り返しによるものとMilgramの単体的空間の幾何学的実現によるものが紹介されています.
これを追うのは大変でしたが,セミナーのメンバーで細かいところまで追うことができて,良い経験になったと思います.
定理4.6.29では,胞体近似定理が紹介されていますが,証明はFomenkoとFuksとGutenmacherの本に投げられています.
私はHatcherの本で証明を追ったので,この本はよく読んでいませんが,紹介されている本では,比較的短く幾何学的直感に訴える証明が載っていると述べられています.
定理4.6.33では,被覆ホモトピー拡張定理が示されており,系4.8.11ではホモトピー長完全列の構成がされています.
これらの議論もとても重要なのでぜひしっかり読んでほしいです.
最後に,2章の被覆空間の性質がこの章の議論から従うことが述べられています.
この後に2章に戻ってみるのもエモいと思います.
また,最後の注意では,被覆空間の理論と体のGalois理論の類似の話からGrothendieckのGalois圏への展望もお話だけ述べられています.
Lestraの講義録がわかりやすいようなので,時間がある時にみてみたいなと思います.(九大にいたころに森下先生が書かれていたガロア圏の本も出版されたようなのでそちらも気になります.)
5章 ファイブレーション
この章では,被覆ホモトピー定理,ホモトピー長完全列,ホモトピー普遍性,分類定理を復習し,ファイバー束の一般化としてファイブレーションが定義されます.
西田先生のホモトピー論などでは,ファイブレーションのことをファイバー空間と読んでいます.
この辺の歴史的な話も注意で述べられているのも興味深いところです.
例5.2.6では,ファイバー束ではないHurewiczファイブレーションの例として直角三角形の射影が図を用いて丁寧に紹介されています.
命題5.2.8では,パス空間から終点をとるパスループファイブレーションが図を用いて丁寧に紹介されています.
これは重要な例なのでしっかり読むと良いと思います.
ループ空間の導入では,Hopf空間とHopf代数の文献が複数個紹介されているのはとても面白いなと思いました.
5.5節では,任意の連続写像を写像跡を用いてファイバーホモトピー同値なファイブレーションに変形する話が紹介されており,その後にファイバー束で重要だった性質をファイブレーションももつとこを示していきます.
5.9節では,パスループファイブレーションがなぜファイブレーションになるのかという問いからコファイブレーションを導入します.
個人的にこの観察はとてもおもしろく感じました.
また,ここでは,ファイブレーションの性質が双対的な議論で従うことが述べられます.
5.11節では,ホモトピー群の重要性を観察し,ファイブレーションの一般化として準ファイブレーションが定義されます.(歴史的には,DoldとThomにより,無限対象積を調べるために導入されました.)
例5.11.6では,ファイブレーションではない準ファイブレーションの例として,DoldとThomの原論文でも紹介されているものが図を用いて丁寧に説明されています.
6章 あとがきに代えて
この章では,ほとんど証明がないが,モデル圏等の目線でホモトピー論の議論について述べられており,最後に展望が述べられています.
KontesevichとSoibelmanによるdeformation theoryについても最後に触れられており,気になります.
最後に
この本は誤植がちょこちょこありますが,本質的なものは少なく行間もさほど広くないのでとても読みやすく良い本だと思います.
セミナーでは,皆さんいろいろな分野を専門にされていたので,いろいろな視点での議論ができましたが,前提知識もそんなに多くないと思うので,初学者も読みやすいと思います.
この本からモデル圏を学び始めるのは自然な流れな気がするので気が向いたらぜひモデル圏にも興味を持っていただけると幸いです.